最高裁判所第二小法廷 昭和27年(オ)816号 判決 1954年10月08日
神戸市灘区水道筋二丁目一四六番屋敷
上告人
源治源太郎
右訴訟代理人弁護士
伊藤順蔵
同市同区桜口町四丁目一八番屋敷
被上告人
西本重郎
右当事者間の請求に関する異議事件について、大阪高等裁判所が昭和二七年六月二八日言渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告申立があつた。よつて当裁判所は次のとおり判決する。
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告人訴訟代理人伊藤順蔵の上告理由は末尾添付のとおりである。
上告理由第一点について。
原判決は、所論本件の債務名義である裁判上の和解の内容は、その以前に締結された所論裁判外の和解の内容と一部分にくい違い(延滞賃料として、既に支払済のもの及び未発生のものの支払を約した部分につき)があつたとしても、その他はすべて上告人委任の趣旨どおりのものであつて、本件裁判上の和解は有効であることを判示しているのであるが、右原審の判断の正当であることは十分肯認することができるから、論旨は採用できない。
同第二点について。
請求異議事件についても、その異議の当否は事実審の口頭弁論の終結当時を標準として判断すべきものである。それ故、所論執行文附与当時は、本件債務名義につき即時の強制執行を為し得ない事由があつたとしても、その後原審口頭弁論の終結当時、もはや右事由が存在せざるに至つた以上、請求異議は失当として排斥されるべきものであることは当然である。論旨は理由がない。
同第三点について。
原審の認定した事実関係の下においては、いまだもつて本件催告を無効としなければならない程の過大な催告ということはできないから(即ち所論甲第三号証の執行調書によれば、請求金額八六〇円執行費用四二三円計一、二八三円であり、原審認定の真実の債務額より五四〇円を超過している)、論旨は採用できない(なお所論中、本件執行の時「上告人は延滞金である三百二十円ならば支払うと云つても上告人の方では応じなかつた」との事実は原審の認定していないところである)。
よつて、民訴四〇一条同九五条同八九条により、裁判官全員一致の意見によつて主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 栗山茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎)
昭和二七年(オ)第八一六号
上告人 源治源太郎
被上告人 西本重郎
上告代理人伊藤順藏の上告理由
第一点
原審は本件裁判外の和解(乙第一号証)と裁判上の和解(本件和解調書)との間にその内容に於て一部分喰い違つてゐるいとを認め乍ら尚本件和解調書を有效と解釋してゐる。然しながら、上告人和解調書作成の爲めに白紙委任状を交付したとしても、乙第一号証の内容についての和解を爲すべく委任状を交付したものであるから、若し右委任の範圍で裁判上の和解を爲されむとするには和解調書作成の日即ち昭和二十一年五月十四日現在に於ける上告人の弁済金控除したる金額を基礎として裁判上の和解をなさなければならない。然るにも拘らず本件和解調書はその權限外の内容である和解条項を以て作成せられたもので法律上無效と云はなければならない。事実と相違した和解条項であるが爲めに、上告人は不測の延滞金ありとして本件強制執行を受け本件を生じたことからしても察知が出來る。そうであるのに原審は之れを有效とした(その理由は第一審判決に示したことを引用して)が当低上告人は肯定出來ない法律の適用を誤つた判決で破棄せらるべきものである。
第二点
本件強制執行当時上告人に賃料等の不履行の責がないことは原審及第一審でもこれは認めてゐる。然し原審はその後「執行文付與についての瑕疵が治癒せられた現在に於ては本件債務名義に基く強制執行」は差支へないとして上告人の請求を廃斥した。然し乍ら、その爲された強制執行の請求に関する異議は、その強制執行の爲された時を基準として、その当否を判斷すべきであり、その強制執行の許否を判斷せらるべきものである。仮りに後に強制執行の要件が具備せられたとするならば、その具備せる場合に更にその強制執行手続を爲すべきものでそれは本件の関係外のことである。本件執行文付與当時その債務名義に基く強制執行が許されざる本件に於ては当然上告人請求を許すべきものである。この点に関する原審判決は法律の適用を誤つたものと思料する。
第三点
仮りに強制執行当時それが許されないものでも後にその瑕疵が癒治せられたときはその強制執行は排除するに由ない」と云ふ原審判決の解釋が正当であるとするも、本件に於て上告人の延滞したる賃料並月賦金は合計金三百二十円であつた」(原審に於て認定)然るに、被上告人は金八百六十円の延滞ありとして被上告人の委任せる執行吏からその弁済の催告があつた。にも拘らず上告人はその催告に応じなかつたから不履行の責があると原審は認定してゐる」甲第三号証によると上告人は請求金額に相違があると云つてゐるに、執行吏は金八百六十円の任意弁済をしないから強制執行(前記金額ニ充ツルタメ………別紙目録ノ通リ差押ヘタリ)として差押物件價格金千三百円の動産差押を爲したのである。即ち上告人は延滞金である三百二十円ならば支拂ふと云つても被上告人の方では応じなかつたのである。原審は延滞金三百二十円に對してその三倍弱の過大な金額金八百六十円の請求は催告を無效とすべき程のものでないと斷定してゐるが、之れが社会通念として入れられるものであろうか。上告人は当低原審の判斷には承服できない。被上告人の催告は不当であつて上告人に不履行の責はないと信ずる。従つて瑕疵は治癒してない。此点原審は法律違背の判決であつて破毀を免れない。
以上